小説くずれの山

小説崩れを置いておく場所。思いつきで書いているので、ほんの少しのテーマ箱みたいなものです。よければコメントください。

アインシュタインの給仕

「退屈な人生だ」 就職の日が近づいてきたある日、男は改めて呟いた。平凡よりも更に少しだけ穏やかな学生生活をおくってきた彼は、もう間もなく何の変哲もない会社に就いて、語ることもないような在り来りな人生をおくって、よくあるホールのよくある棚で念…

確実な過去をなぞる

※ 少し、昔話をしよう。 ※ ……? 目を覚ますと、重要な記憶ばかりがひどく曖昧になっていた。自分の名前、現在地、今の時間。 辺りは暗い。暗闇の奥に一筋だけ光が差し込んでいる。扉の隙間だろうか。ここは何かの部屋の中のようだが、心当たりは無い。勿論、…

リスキーゲーム

何かに決着をつけるということは、得てしてリスキーなものなのだろう。勝つためには負けるリスクを負わなくてはならない。 例えばそれは、歴史のワンシーンで。 何百年前かは知らないが、親の仇を討つために剣に生涯を捧げた彼がいた。彼はいよいよ仇との真…

桜の樹の下

「僕に限った話じゃないさ」 声にならない言葉で、僕は呟く。 「どんなかたちであれ、最後はだれだってきっとそうなるんだから」 目の前では、イマドキと形容するにふさわしいファッションの少女が、桜の樹を不思議そうな瞳で見上げている。歳は十代後半だろ…

間抜けの世界

カチ、カチ、カチ。秒針の音だけが聞こえる部屋で、熱すぎたコーヒーを冷ましている。 あの日以来凝りが酷い肩を揉みながらため息をついた。 あれからもう少しで1年が経つ。随分と時間が流れたものだ。その間、自分の身に、あるいは心に、何か明確な変化があ…

死んでも学べない

「この台風×x号は地球史上最大規模とも言わ れており、東京23区の3割が水没すると言わ れた昨年のスーパー台風と比べても一一」 テレビからは、ニュースキャスターが気象情 報を伝える無機質な音声が聞こえている。 しがない会社員のFは、そんなニュースを聞…

最悪の目覚め

最悪の目覚めだった。 昨晩は美味しい夕飯を食べて、新しく買った身体にいいらしい枕で快適な眠りについたというのに、悪夢を見たのだ。 夢の中で死んだのだ。 その夢の中で、私は気付くと、どこかで見たことがあるようで、おそらく実在しないことが何となく…