小説くずれの山

小説崩れを置いておく場所。思いつきで書いているので、ほんの少しのテーマ箱みたいなものです。よければコメントください。

死んでも学べない

「この台風×x号は地球史上最大規模とも言わ

れており、東京23区の3割が水没すると言わ

れた昨年のスーパー台風と比べても一一」

テレビからは、ニュースキャスターが気象情

報を伝える無機質な音声が聞こえている。

しがない会社員のFは、そんなニュースを聞

き流しながら、公共交通機関の遅延や運休が

ほぼ確定している明日、 どうやって出勤しよ

うか考えていた。

「タクシー……は高いんだよなあ」

台風だからといって出勤しないわけにはいか

ない。なんだかんだ去年のスーパー台風だっ

て普通に生き延びられた。交通は麻塵するし

足元も悪くはなるだろうが、 どうせニュース

の言うような大袈裟なことにはなるまい。

しかし、移動の足をどうしたものか。できる

だけお金はかけたくないが...。

翌日、止むを得ずタクシーと遅れながら動い

ているバスを無理やり乗り継いで出勤したF

は、冠水しつつあった路面にタイヤを取られ

たバスの事故で死亡した。

 

 

「台風xx号は地球史上最大規模とも言われて

おり、東京23区の3割が水没すると言われた

昨年のスーパー台風と比べてもー一」

ニュースキャスターが無機質に伝える気象情

報を見ながら、主婦Nは防災用品の備えを確

認していた。懐中電灯もモバイルバッテリー

も、カセットコンロとガスも準備したし、水

も蓄えた。

「そうだ、物干し竿もしまっておかない

と.…」

不安を胸に忙しなく動いたNは、 その日のタ

方には、どのサイトに乗っているマニュアル

と比べても不足のない備えを終えた。

「あ、Mちゃん、明日はお友達と遊んじゃダ

メよ。お天気が悪くて危ないから」

娘のMにも注意を促した。幼稚園も明日は休

みにするのだそうだ。

「あとは家でおとなしく過ごすのが一番ね」

ひとまず落ち着いて床についた翌朝、 外は激

しい暴風雨で、耳を塞ぎたくなるような轟音

が窓を震わせていた。テープで補強してある

ので、万が一割れても大事故にはならないは

ずだ。

その日の夕方、昼食後の転寝から覚めたM

は、昼寝をしている娘を起こしに子ども部屋

に向かった。

そこでMの目に飛び込んできたのは、 子ども

部屋を出てすぐのところにある小窓に突き刺

さった物干し竿だった。

どこかの家から飛んできたであるろうそれは、

小窓を割り貫いていた。テープ補強のおかげ

か破片はそれほど散っていないが、 もし娘が

ここを通るタイミングで、これが飛んできて

いたら.…。

 

 

先日の台風で息子のFが死んだようだ。

まだ実感が湧かない。一通りの始末を終えた

私は、息子の借りているアパートの部屋を片

付けにやって来た。

片付けている間に少しずつ実感が湧いてきた

一方で、どこか妙に冷静な私が疑問に思っ

た。

「あの子は、物干し竿を持っていなかったの

だろうか?」